7章「暗雲と一筋の光」

 

 

「これで・・・いいか」

ハヤトたちは夜明けまで穴を掘っては命を落とした兵たちを埋め、祈りをささげる・・・その作業を繰り返していた。朝、今日も澄み渡ったいい朝。ただ、戦闘がくりひろげられたその場所は異様な空気につつまれていた。ハヤトの頭の中ではユウギリの哀歌が響いていた。前に聴いたが綺麗な歌声だった。幻想的でうっとりするぐらい・・・そして涙が出そうなくらい哀しげだった。

「さて、これからどうしますか?キリン様」

「しばらくはここにいるのが妥当だろうか・・・会議を行うのはこの場所のはずで・・・」

キリンが言葉を止める。遠くだが何かがこちらに向かってきた。

「サトシ様―!それにキリン様―!」

水色の馬・・・聖獣にまたがり召喚士と思われる金の髪のサトシより少し年上に見える少年がやってきた。

「シナ、一体どうした?」

「そ・・・それが・・・他の加盟国から・・・今回の紛争にはかかわらない・・・と」

「なにぃ!?」

ハヤトが大きな声をあげた。隣ではヘイナが遠い目をしてその様子をぼんやりと見ていた。

「おい!どういうことだよ!!現にラリファはあんなめにあったんだぞ!?しかも今回俺らは襲われたんだぞ!それがどういう意味かわかるか!?あいつらは、ヘリオスは本格的にセレーネを攻めるつもりなんだぞ!?」

ハヤトはシナに詰め寄った。キリンとヘイナに落ち着けと宥められた。

「つまり・・・今の状況からすると我々は、我々だけで立ち向かわねばならないということか・・・?」

キリンがシナに問う。シナも苦い顔をした。

「そうですね・・・ワオンはラリファからの避難民を受け入れていますし、協力の意思表明をしてくれています。それにコロンも協力意志はあります・・・ただ・・・」

「ただ?」

「コロンは学術の街・・・兵の提供は期待できません」

「・・・だろうな。それはトウヤ殿を責めてもいたしかたあるまい」

一同が静まり返る。

「ダフネは・・・?」

「ゼウスとの敵対関係からか、意思表明の連絡はありませんでした・・・」

キリンが表情を固くする。サトシも下を向いていた。その場にいる者たちは2人の意見を待った。するとシナがおずおずとサトシに近づいた。

「あの・・・サトシ様・・・トウヤ様もルーンに駆けつけてくれたのですが・・・」

「トウヤ殿が?」

「はい。とりあえず一旦ルーンにお戻りください。皆サトシ様がいないことで不安になっています。キリン様たちもいっしょに。拠点は今のところ・・・無さそうですから」

「わかった」

シナの言葉に頷き、一同は船に乗りこみ、ルーンを目指すことにした。

 

 

「失敗しただと?」

ヘリオス騎士団の砦の荘厳な雰囲気の会議室でトワの声が響いた。

「相手の数はそんなにいなかったはずだが?」

「はい・・・しかし奇襲をかけたのはよかったのですが、さすがは海賊というか・・・察知されたようで・・・しかもルーンの長をはじめ召喚士たちの魔術の前に大苦戦いたしまして・・・それに、兵に動揺がみられましたので・・・」

「何故動揺など・・・」

「敵の中にユウギリ様がいらっしゃいました。彼女が・・・我らに攻撃を仕掛けてきたのです・・・最初は操られでもしたかと思いましたが・・・ご自分の意志で戦っておられました・・・」

トワが渋い顔をする。ユウギリは天照神官長、神王であるアスカの次に高い身分の人間だ。しかも並外れた魔力の持ち主で戦闘能力の高さも随一だった。敵に回すのは非常に危険な人物である。

「ユウギリ殿はつまり・・・キリンたちについたか・・・」

トワが声を落として言う。部下の兵士たちにはその声は聞き取れなかった。

「下がって良いぞ。部隊のたて直しをしておけ。作戦はこちらで考えよう」

兵士たちが下がりトワは窓の外をぼんやりと見ていた。

「・・・キリン・・・おまえはどうしてもヘリオスにたてをつくか・・・」

窓ガラスに手をコンッとあてる。

「・・・ユウギリ殿もアサヒによく似たことで・・・」

 

 

「失敗したそうだ」

リンがアスカの自室に入り、タマの側にいる神王にそう伝えた。

「そうか・・・」

「ユウギリはやはりあっちについた。自分の意志で・・・」

「そうか」

アスカの表情はやや曇ったが別に何とも思っていないようだった。

「いいのか?ユウギリと戦うことになるぞ」

「かまわん。ユウギリがその気ならこちらも戦うまでだ」

アスカの言葉にタマも目を見開いた。

「アスカ様・・・解決法はないんですか?ユウギリさんと戦う以外に・・・」

「あいつは自分の意志は曲げない女だ。毅然としてて信念を貫く強い心の持ち主で・・・ムカつく奴だ・・・」

一瞬だったがアスカの表情が優しいものになった気がした。その一瞬をリンもタマもしっかりと見た。

「・・・では俺はトワに話をしてくる。リンは仕事に戻れ。タマはここに」

「はい」

「わかった」

アスカが部屋から退出し、リンとタマは互いの顔を見合わせた。

「アスカ様は・・・まだどこかに・・・」

「完全に闇になったわけじゃなかったか。でも・・・」

「・・・闇にかなり染まってしまったことには違いない・・・ですか?」

「そうだな。でもまだ光がアイツの中にあるのなら・・・俺は付き従う。アイツのために」

「私も同じく・・・いざという時は戦います」

2人の決意がしっかりと固まり、しっかりとした眼を確認しあった。

 

 

 美しい湖を囲むようにしてできた青みがかった不思議な森にある集落、それがルーンだった。太陽の光を浴び、青色に染め抜かれた葉が涼しげで、落ち着きがあった。まるで海の中にでもいるようなそんな気分にさせた。

「サトシ様!おかえりなさいませ!!」

長い金髪を束ねた少女が無邪気な笑顔を浮かべて駆け寄ってきた。年の頃はサトシより下ぐらいの子供に見える。

「お兄ちゃんも!」

少女がシナに向かってそう言う。たしかに金の髪はよく似ていた。

「クミ、トウヤ殿たちはもう来ているのか?」

「はい!ちゃんとサトシ様のお屋敷の応接室に!」

「そうか、わかった」

サトシは皆に自分についてくるよう合図した。木造建築だがしっかりとした屋敷に向かう。村ではサトシに笑顔で挨拶をする人々が度々見られ、彼が長として立派につとめあげていることがハヤトには窺い知れた。屋敷の中に入ると側役にあたる召喚士の青年と応接間から出てきてしまったのかトウヤとマーラがいた。

「サトシさん、お疲れさまです」

「トウヤ殿、こんなところに立っていないで、応接間に・・・」

「すみません、トウヤはじっと待つのが苦手なようで・・・」

トウヤの隣にいるマーラが笑顔で応対する。皆が応接間へと入っていき、サトシとキリンを中心に会議をとり行うように座った。

「さて、わかっていると思うがセレーネ連合はバラバラ、主席国家であるラリファは落ちた。協力体制をとっているのは我ら海上戦士団、ルーン、ワオン、そしてコロンだ」

キリンが厳しい表情で皆を見回す。

「しかも敵はヘリオス。セレーネ連合がまとまっていなければ敵うはずもない大国だ」

「それに対して我らの兵力はセレーネ連合総数の半分すらない・・・」

サトシが肩をがっくりと落とし長い黒髪が垂れ、彼が落胆しているという心境が伝わり皆の顔つきも不安そのものだった。

「キリン殿、この中で・・・兵法について詳しい人は?」

ユウギリが突然口を開き、キリンはもちろん、皆の視線が彼女に集った。

「いや、残念ながら皆戦いには長けているがあまり兵法は・・・それが何か?」

「ううん、思い付きには他ならないんだけど、相手はヘリオスで、軍の体制も整ってるんだ。多分騎士団にいたヘイナならわかると思うんだけど・・・」

ユウギリの言葉にヘイナが真剣な表情で頷いた。

「ああ、言いたいことはわかった。つまり騎士団に必ずいる知識人部隊・・・いわゆる兵法を専門とし、武器はとらずに策を練る集団がいる・・・それに値する人間を探したいということだな?」

「うん、彼らがいるのといないのでは大分違う。ヨツンへイムと問題を起こしたことがあったらしいんだけど・・・相手の策士にまんまとはめられたようで、1回ヘリオス軍がほんの少しのヨツンへイムの軍に負けてしまったことがあるんだ。それ以来ヘリオスも真似てだけど兵法の専門家を養成するようになったんだ・・・最もヨツンへイムの兵法学者たちほどでは無いと思うけど」

「つまり、このまずい状況からでもその兵法学者ほどの人物を味方につければ希望の光があるってことか?」

「でもそれは難しいですね。兵力が違いすぎます・・・」

ハヤトの希望を持って言った言葉にシオンがシビアなダメだしをする。そのもっともな意見に一同が溜め息をつく。

「はいはい!あの!!」

トウヤがいきなり手を上げて立ち上がった。あまりに唐突な行動に隣にいたマーラも冷静なキリンやサトシも驚いた。

「僕たちのコロンは学術街として有名ですよね!?」

「そ、そうだな」

「ヨツンへイムから来た学者さんがいるんですよ!!」

「お、おいトウヤ・・・ヨツンへイムから来た学者が皆兵法をやってきているわけではないぞ?現に俺の父も魔術専門の学者だし」

「たしかにあの先生は心理学者だけど、ヨツンへイムの軍の腕章を持っていたってシキさんが言ってたんだよ?」

「心理学者?」

ユウギリがその言葉に反応した。

「トウヤ、その学者の名前は?」

「え?キタリス・・・キタリス先生です・・・」

「・・・そう、なら会いに行く価値はあるんじゃないのかな」

トウヤとマーラを筆頭にはてなマークを浮かべている一同をよそにユウギリがスッと立ち上がり、皆を見回した。

「何でだ??心理学は兵法に使えるか?」

「交渉術にはなりそうだけどな・・・」

ユウギリがクスッと笑った。いつもどおりやや皮肉な笑い方ではあったが自信に満ちたようね笑みだった。

「そうだね、そういう使い方もできそうだけど・・・僕の記憶が正しければその人はヨツンへイムのやり手の策士の1人だと思うよ」

「本当か!?」

ハヤトの嬉しそうな疑問にユウギリが頷く。

「・・・じゃあさ!とにかく会いにいこうぜ!ここで話し合ってても状況はよくならなりそうもないだろ?思い立ったら即行動だ!・・・兵力はまずいかもしんねえけど」

「いえ、もしかしたらそれほどの策士の方ならばセレーネを団結させることは可能かもしれません・・・万が一の時はアスカ陛下をカウンセリングしていただきましょう」

「シオン。心理学者がカウンセラーとは限らないよ」

ハヤトの言葉にシオンが余裕の感じられる笑顔を向けて言う。それに対しユウギリがつっこみを入れた。心なしか皆の顔に希望の表情が浮かんだ。

「では異論はなかろう。トウヤ殿、我らの案内役を頼む」

「はい!」

キリンの声にトウヤが元気よく返事した。トウヤは兵を提供してやれないことに強い罪悪感を抱いていたため役にたてることが嬉しかった。

「よし!じゃあ出発だ!!」

ハヤトの声に皆が『オー!』と声を出す。

 

 

 それぞれの心に一筋の希望を見出したのだった・・・。




      

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